佐藤常寛氏(海上自衛隊元海将補)インタビュー
Q:現役時代の役職(最終履歴)とその役割について教えてください。
A:海上自衛隊幹部学校(旧海軍の海軍大学校に相当)の研究部長を最後に退官しました。
幹部学校研究部は海上自衛隊の戦略、戦術を中長期的な視点で研究し、海上幕僚監部が策定する防衛政策や自衛 艦隊が実践する部隊運用にその研究成果を反映するとともに、併せて、海上防衛に活用するための国際法、国内法、戦史等を幅広く研究する部であり、この企画、計画、実施を統括していました。
Q:自衛官として最初の任務はどんなことでしたか?
A:3等海尉に任官して練習艦隊の実習航海終了後、護衛艦の水雷士兼甲板士官の任務に配置されました。
水雷士は水雷長の下で、対潜水艦武器(魚雷、アスロック、ボフォース)を所掌し、甲板士官は副長の下で、艦内の風紀全般を取り締まる役職でした。特に甲板士官は最も若い幹部が指定され、「総員起こし(起床)」から「巡検(一日の締めくくりとして艦内清掃・整理整頓状況の巡視)」まで一日中、艦内をくまなく見て回る勤務です。
体力的には厳しい面があるものの乗員と身近に接する機会が多く、これが貴重な経験となってその後の勤務に大変役立ちました。
注:アスロックは米国製。短魚雷を装着したロケットを8連装ランチャーから発射。着水後はホーミング魚雷。
ボフォースはスウェーデン製。4連装の対潜ロケット発射装置。着水後は爆雷。
Q:もっとも長く経験された任務を教えてください。
A:職域は潜水艦幹部でしたので、潜水艦の勤務が合算すると一番長い任務となります。
ただ、海上自衛官の幹部は転勤が多く、同じ艦にも精々2年勤務できればいいところでしたね。その2年間でも、艦内で配置が替わる為に、艦隊勤務では長い任務を経験できませんでした。長い任務としては陸上勤務の時で、在ノルウェー王国防衛駐在官が3年間、舞鶴地方総監部の管理部長が2年3ヶ月でした。
Q:現役時代の忘れられない任務の思い出、エピソードをひとつ教えてください。
A:潜水艦幹部課程の教育を終了して最初に乗り組みを指定されたのは、涙滴型一番艦の「うずしお」でした。
艦橋の横に翼のように潜舵(潜航用の舵)を装備している潜水艦は珍しく、対潜水艦訓練では各部隊から引っ張りだこの状況で母港に停泊する機会が少ない、文字通り忙しい艦でしたがある時、30日間「無寄港・無補給」の行動命令を受けて出港しました。「うずしお」は船体を高張力鋼(ステンレス)で建造、船体各部の装置も品質管理に最大の注意を払った潜水艦で、この行動命令の背後には、それまでの潜水艦が果たせなかった長期行動を完遂できるものと、大きな期待が掛けられていたのです。
長期行動が終盤に差し掛かったある日、訓練が終了して浮上した「うずしお」に護衛艦から内火艇(連絡用ボート)が近づき、トロ箱の「サンマ」を指揮官からの「陣中見舞い」として届けてくれたのでした。生鮮食品に飢えていた潜水艦乗員は小躍りして喜んだものの、艦長の「待て」の一言で沈思黙考。
実はこの「サンマ」を受け取ると「無補給」の命令違反になるとの危惧が皆の頭を過ぎったのです。「サンマ」のトロ箱を甲板に上げるべきか否か、しばしの沈黙を破ったのは、副長の「洋上で拾ったものなら補給じゃないよな」の呟き。
かくして、トロ箱にロープを結び海面に捨ててくれた「内火艇」に、艦長以下万感の思いをこめて「帽振れ(海軍からの伝統。帽子を振って別れを惜しむ挨拶)」。その夜は、「サンマ」の煙が艦内を満たした次第。「うずしお」は海上自衛隊創設以来初めての、潜水艦による30日間「無寄港・無補給」行動を達成。
それ以後、潜水艦の建造技術の向上、特に金属材料はじめ、各部装置製造での品質管理が徹底されたことによって、潜水艦の長期行動は当たり前になり、海中での「海の守り」が強化できたのです。
潜水艦の長期行動を可能にした背景には、我が国の工業界における品質管理による技術向上が深く関わっている事実を認識しておきたいものです。
略歴:佐藤 常寛(さとう つねひろ)1944(昭和19)年長崎県佐世保生まれ。防衛大学校(第12期)出身。潜水艦艦長、在ノルウェー王国防衛駐在官、舞鶴地方総監部管理部長、下関基地隊司令、幹部学校研究部長などを歴任。1999(平成11)年12月退官。元海将補。
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