佐藤常寛著「キミよ、日本を守れ」ウェブ連載スタート!
これまで「国防最前線 いまここにある危機の本質」と題し、さまざまな観点から日本の国防に関する問題を解説していただいた佐藤常寛氏によるウェブ連載がチャンネルNipponで始まりました。
佐藤常寛著「キミよ、日本を守れ」
以下の内容で「チャンネルNippon」にて順次連載される予定です。どうぞご期待ください。
まえがき
第1章 生命(いのち)の尊さ
第2章 生命(いのち)を奪うもの
第3章 戦争の本質
第4章 政治体制の現状
第5章 日本に影響した現代戦争
- 米ソを中心とした東西両陣営の「冷戦」
- 冷戦を背景としたアジアにおける地域戦争(冷戦期間中の米ソ代理戦争)
- ペルシャ湾岸における地域戦争
- 大量殺人テロとの闘い
第6章 キミよ、日本を守れ
- 軍事上の地理的特性
- 国民性
- 日本の国家像
- 国を守るとは
- 集団的自衛権の行使
- 非核二原則
- 日本人としての誇り
- キミよ、日本を守れ
あとがき
国防最前線 いまここにある危機の本質<連載全十三回>ご紹介 解説:佐藤常寛
核兵器廃絶への長い道のり 解説:佐藤常寛(元海将補)
先週は核兵器をめぐる現実についてお話を伺いました。
- 第十二回「核兵器、非人道的兵器をめぐる現実」
今週は核兵器廃絶に向けた努力、解決策についてお話を伺います。
Q:NPTの悪用ともいえる原子力の平和利用目的を隠れ蓑にした核兵器開発という動きがあります。核の拡散がもたらす脅威について、いま一度お教えください。
A:核分裂を利用した「原子爆弾」には、ウラン235を濃縮して製造する「ウラン型原爆(広島投下型)」とウランの核分裂によって生成されるプルトニウム239を利用した「プルトニウム型原爆(長崎投下型)」とがあります。
ウランを濃縮するためには専用の「遠心分離機」が必要であり、原爆製造に必要な量のプルトニウムを生成するためには、原子炉で長時間ウランを核分裂させなければなりません。
このため「遠心分離機」の大量入手、IAEAの監視を逸脱した原子炉の増設は核開発の疑惑の原因となります。さらに疑惑を持たれる行動を呷(あお)るような国家指導者の過激な言動が、疑惑を一層深くさせているといえます。
イランとシリアは、ブッシュ前米大統領が「テロ支援国家」と名指ししていました。こうした国家が核兵器を保持し「アルカーイダ」等のテログループに核兵器を渡すことになれば、曲がりなりにもNPTによって果たしてきた国際的枠組みの「核兵器管理」が崩壊し、テログループによる核攻撃が無差別に引き起こされる新たな脅威が生まれます。
さらに近年の科学技術は使用目的に応じた小型核兵器の製造を可能にし、プルトニウム原爆は1.5kgのプルトニウムの量で超臨界に達するようになりました。こうした「ミニ・ニューク」と呼ばれる小型核兵器が、テログループの手に入ることが最大の脅威といえます。
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- 作者: 山田克哉
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A:そのとおりです。米ソ冷戦時代には、東西間での大規模な核戦争の脅威がありましたが、世界破滅に至る結果を恐れた当事者間で最悪の事態を避ける妥協が図られました。キューバ危機(1962年)における米ソの対応がその典型です。
しかしながら、冷戦構造が崩壊した後、突出した米国の軍事力に対抗する新たな挑戦が、2001.9.11の「アルカーイダ」によるニューヨーク世界貿易センターへのテロ攻撃だったことは記憶に新しいところです。北朝鮮・イラン・キューバ・シリア等の「テロ支援国家」と「アルカーイダ」に代表されるテロリストに共通しているものは、集団的安全保障により「世界の平和と安定」を目指す「国連」の枠組みを無視する行動です。
NHKスペシャルセレクション 憎しみの連鎖(スパイラル))―アルカイダ工作員の実像
- 作者: 山本浩
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A:「国連」はNPTだけでなく「生物兵器禁止条約(BWC:Biological Weapons Convention)1972年(加盟163ヶ国)」「化学兵器禁止条約(CWC:Chemical Weapons Convention)1997年(加盟185ヶ国)」をそれぞれ成立させていますが、テロ支援国家のうち、北朝鮮、シリアがCWCに加盟していません。
また2004年パキスタンのカーン博士による「核闇市場」が摘発され、北朝鮮、イラン、リビアにウラン濃縮技術が供与された事実、さらにドバイを本拠とするブラック・マーケットで核技術が売買された事実が明らかになりました。こうした不法な取引によってテロ支援国家、あるいは、テログループが核兵器(ミニ・ニューク)、生物・化学兵器を簡単に入手する恐れは十分にあります。
この不法取引を防止するには、売買の資金を国際的に監視する体制を強化し、取引に利用されている銀行口座を凍結させる必要があります。北朝鮮が武器売買・麻薬密輸・偽札偽造で得た資金を、米国を中心とした国際金融システムによって凍結させ、同国の核開発・ミサイル開発への資金投入を阻止したような措置が必要です。今日の世界ではテロ支援国家あるいはテログループの大量破壊兵器の保持が最大の脅威なのです。
国際テロネットワーク―アルカイダに狙われた東南アジア (講談社現代新書)
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A:自衛隊の第一線部隊では「CBR(化学・生物・放射能)戦」の対策を採っていますが、有事想定の一般国民を防衛する「国民保護法」に「市民防衛(Civil Defense)」の思想が盛り込まれていないため、十分ではありません。
ノルウェーの例と比較してみるとその違いは明確になります。ノルウェー王国は小国ながら戦時の「市民防衛」体制が整えられており、防空壕を兼ねた洞窟内に地域住民全てを収容して、入り口を密閉することによってCBRに対処するように日頃から準備しています。
ノルウェーの社会―質実剛健な市民社会の展開 (waseda libri mundi)
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これは、第二次大戦中、ナチスドイツに占領された苦い経験から導き出した、「自分の身は自ら守る」との考えが根底にあるのです。この「市民防衛」の体制は「国を守る」意思が国民に定着しない限り、きわめて困難だといえます。
- 作者: 市民防衛フォーラム
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市民の安全保障―ひとりからの平和構築 (civics市民立法)
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A:ここまで、大量破壊兵器の「現実」に目を向けましたが、現実対処と併せて「理想」についても言及したいと思います。
まず「核兵器の脅威」に晒されている我が国の現実対処について、「非核三原則」の国防方針を一部転換して、「非核二原則」にする必要を第五回で解説しました。
- なぜ日本に基地は必要なのか?(後編)
冷戦末期の欧州で、NATOとソ連との間で熾烈な戦いとなったINF(中距離核兵力)全廃条約締結の経緯は、中国・北朝鮮の「核の脅威」に一方的に晒されている我が国にとって、参考になります。
- 作者: 李英和
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INF全廃までの経緯
INF全廃までの経緯は次のとおりです。
1977年、西ドイツのシュミット首相(当時)は米国がソ連との核軍縮交渉でINFを含めないことを非難します。ソ連が欧州に配備したSS20ミサイルは全欧州を射程圏内に入れているにも拘らず、SS20がワシントンに届かないために米国がこれを脅威として扱わず、核軍縮の議題にしないことを非難したのです。
この後、米国のレーガン大統領(当時)はSS20に対抗して米国INFパーシング?の欧州配備を決断、各地で配備反対のデモが起こる(後年、ゴルバチョフ自らが、ソ連が背後で工作していたことを認めた)ものの、レーガンは配備を敢然と遂行します。この米国の対応にパーシングIIの脅威に屈したソ連のゴルバチョフ書記長(当時)は結局交渉のテーブルに着くことになりました。
- 作者: アーチー・ブラウン,小泉直美,角田安正
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そこでINF全廃条約が成立(1987年)し、西欧を覆っていた核兵器の脅威が取り除かれたのです。この時、西ドイツが決断した、パーシングIIの配備と配備完了後に米ソが同時にINFを全廃する提案はきわめて巧妙であり、また的を射ていました。
- 作者: ミハイルゴルバチョフ,工藤精一郎,鈴木康雄
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- 作者: ミハイルゴルバチョフ,工藤精一郎,鈴木康雄
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「ソ連にとって、NATOに配備された米国のINFは、こめかみに突きつけられたピストルのような存在だった。発射後二分でベラルーシに届くし、四、五分でモスクワに到達できた。ソ連のINFは米国本土までは届かない。NATO配備のINFはソ連の指導部や人口、経済の中心部を射程内に置いていた。これに対してソ連は何の防御手段も無かった」
と述べているからです(1997年12月18日付朝日新聞記事)。
Q:当時の西ドイツといまの日本が置かれている状況は似ているようにも思えますが、いかがですか?
A:そうです。当時の西ドイツが置かれていた軍事環境を現在の我が国に置き換えると、中国・北朝鮮の「核の脅威」に一方的に晒されている状況が酷似しています。西ドイツと大きく違うのは、我が国が一方的に宣言している「非核三原則」のために、同盟国の米国に対して、中国・北朝鮮の核ミサイルに対抗する手段に、米国の核巡航ミサイルを配備要請できません。
つまり、いまの日本では米国によって核巡航ミサイルを完全配備した後、中国・北朝鮮の核ミサイルを相互に撤廃しようという交渉にすら臨むことが不可能で、西ドイツのような対策が取れないのです。現在の「非核三原則」のままでは、非核地帯の日本が中国・北朝鮮の「核兵器脅威」の前に素手で立っていることになります。
Q:しかし核武装はできないとなると、具体的な対応策はありますか?
A:我が国が核武装しない理由は前回お話しました。そこで具体策として「非核三原則」のうち「持ち込ませず」の原則を破棄し、「非核二原則」に改めることが米国の「核抑止力」を担保する手段だと考えます。非核三原則を宣言した当時とは我が国周辺の軍事状況が大きく変化し、北朝鮮が核武装した現実にも柔軟に対応できるのです。
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核廃絶への具体的なロードマップ、解決策
Q:核廃絶への具体的な提言をお聞かせください。
A:まず「核問題」解決の理想について、お話しましょう。
2009年4月5日、米国のオバマ大統領はチェコのプラハで歴史的な核軍縮演説を行いました。この演説に「核問題解決の理想」が語られていると確信します。大統領は演説の途中、「核兵器を使用したことがあるただ一つの核保有国として、米国は行動する道義的な責任を持っている」として、広島・長崎への原爆投下に対する事実にも触れながら、21世紀の核兵器の未来について次のように述べています(要約)。
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- 全面戦争の危険は去ったが、核拡散により核攻撃のリスクは高まっており、核兵器の無い平和で安全な世界を追求する。
- 国家の安全戦略における核兵器の役割を小さくするが、こうした兵器が存在する限り、抑止するための効果的なミサイル保有量を維持する。
- 核実験を禁止するため、包括的核実験禁止条約(CTBT:注1)の批准を直ちに、積極的に追及する。
- 核兵器に使用される物質の生産を終わらせるため、核保有国で使用される核物質の生産を検証可能な形で終わらせる条約(カットオフ条約:注2)の締結を目指す。
- 核拡散防止条約(NPT)を協調の基礎として強化する。民生用の核協力として「国際核燃料バンク」の新たな枠組みを提唱する。
- 北朝鮮がミサイル発射によりルール違反をしたが、世界的な管理体制を築くために団結して、北朝鮮に圧力を加えなければならない。
- イランが積極的な査察を伴うのであれば、平和的な核エネルギーの利用を認める。イランの核と弾道ミサイル開発が脅威である限りチェコとポーランドにミサイル防衛(MD)計画を進める。脅威が無くなればMD計画は実施しない。
- テロリストによる核兵器入手を阻止しなければならない。これは世界の安全保障にとり最も差し迫った究極の脅威である。従って、世界中の無防備な核物質を4年以内に安全とする国際的な試みを宣言する。
- 闇市場を破壊し、運搬される物質を探知し、危険な取引を中断させるために金融的な手段を使用する。
- 作者: コスモピア編集部
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- 注1(CTBT:Comprehensive Nuclear−Test−Ban Treaty)宇宙空間、大気圏内、水中、地下を含むあらゆる空間における核兵器の実験的爆発及び核爆発を禁止する条約。182ヶ国加盟(2010年5月現在:外務省資料)。発効要件国44ヶ国が指定されているが、このうち、米国が未批准、インド、パキスタンが未署名のため条約そのものが未発効状態である。この状態を打開して効力を発揮させる意図をオバマ大統領は宣言した。
- 注2(FMCT:Fissile Material Cut−off Treaty)「兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約)」核保有国及びNPT非締約国(特にインド、パキスタン、イスラエル)の核能力を凍結することが目的の条約で、1993年9月に米国のクリントン大統領(当時)が国連総会演説で提案した。その後、1998年に核実験を実施したパキスタンの修正要求等もあって現在に至るまで条約交渉は進んでいない。この現状を打開して核兵器製造用の物質生産を終わらせるため、オバマ大統領が締結を宣言した。
少し長い引用になりましたが、オバマ大統領が狙いとする「核なき世界」の実現に向け、NPT体制の強化、CTBTの発効、FMCTの締結を図る一方、核兵器が存在する限りにおいては、「抑止力」とすべき所要のミサイル維持を宣言して、現実の脅威対処に遺漏の無いことも強調しています。
また、世界の安全保障にとって究極の脅威を、テロリストの核武装と位置付け、核兵器の闇市場の破壊と取引阻止のために、国際金融機関で対処すべきだとしています。これらの対処方針は、現状における核兵器、非人道的兵器開発を食い止める方策を網羅しているといえます。
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- 作者: ライザロガック,Lisa Rogak,中島早苗
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核兵器、非人道的兵器をめぐる現実 解説:佐藤常寛(元海将補)
第二次世界大戦後アメリカ、ソ連という二大軍事大国を中心に進められてきた核開発競争も、東西冷戦終結後、一定の歯止めは掛かったようにも見えます。しかし一方で核開発技術の流出は止められず、核物質の闇取引市場は広がり、核拡散、テロリストへの流出という新たな脅威を生むことになりました。何世代にもわたる苦しみを与える非人道的兵器に対抗して核開発力を持たない国々では数多くの生物化学兵器も開発されています。そこで、まず今回は…、
Q:世界に広がる核保有の実態について、解説をお願いします。
A:「核兵器」問題について、まず我が国は「核武装すべきではない」との立場で解説します。
我が国は世界唯一の被爆経験国です。今から65年前、広島、長崎に投下された原子爆弾は、一瞬にして無辜(むこ:罪の無い)の一般市民約20万人以上の命を奪いました。原子爆弾(核兵器)は想像を絶する破壊力と、放射能被爆の悲惨な後遺症の故に人類が生んだ「悪魔の兵器」として広島、長崎への投下以後65年間使用されませんでした。
その最大の理由は、米ソを中心とした東西冷戦下において、もし、核戦争が勃発した場合、核兵器による大量破壊が世界全体に及び、人類が滅亡するという恐怖と危険性を東西両陣営が共通認識として持っていたからです。そのために米ソ間では、核兵器管理を目的とした条約が次々と締結され、今日においても相互の戦略核の数を制限し合っています。
常識として知っておきたい核兵器と原子力 (KAWADE夢文庫)
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- 作者: 梅本哲也
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「核兵器」の保持が、
- 軍事大国として国際社会での地位を確立できる
- 核攻撃に対する「抑止力」になる
- 外交交渉において無言の圧力(恫喝)を発揮するからに他なりません。
- 作者: 白川義和
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この五ヶ国の核開発の年次は次の通りです。
国 名 | 最初の核実験 | 場 所 |
---|---|---|
アメリカ | 1945年7月 | ニューメキシコ |
ロシア | 1949年8月 | カザフスタン |
イギリス | 1952年10月 | オーストラリア |
フランス | 1960年2月 | アルジェリア |
中 国 | 1964年10月 | 新疆地区 |
- 作者: メラフダータン,ユルゲンシェフラン,アランウェア,フェリシティヒル,Merav Datan,Alyn Ware,J¨urgen Scheffran,Felicity Hill,浦田賢治
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ただ、この条約は米・露・英・仏・中の五ヶ国を「核兵器国」として定義付け(第9条3項:注参照)、この核兵器国の「不拡散義務(第1条)」に続いて、非核兵器国に対して「拡散回避義務(第二条)」を課し、「核兵器国」以外の国家が核兵器保持を禁止する内容になっています。言い換えれば、核兵器開発を早期に達成した五ヶ国の核兵器独占を宣言しているともいえます。
中国の核戦争計画―ミサイル防御(TMD)、核武装、日本・台湾同盟、の提唱
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注:第9条3項「この条約の適用上「核兵器国」とは1967年1月1日以前に核兵器その他の核爆発装置を製造しかつ爆発させた国をいう」。
さらにこの五ヶ国が国連安保理において「拒否権」を有する常任理事国であることが、国際紛争を解決する各種安保理決議において、核兵器を背景にした自国国益を最優先させる「拒否権」のために、国連安保理そのものが機能しない事態が常に生起していることが問題です。
- 作者: 平松茂雄
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A:そういうことです。具体的な例を挙げると「国連憲章第七章」に規定される「国際平和を破壊する国家」に対して発動される軍事措置で、いずれかの常任理事国が「拒否」するために「国連軍」が編成されること無く、「多国籍軍」による対応しか取れないことがその典型的な事例です。こうした背景のNPT体制に対して、後発の核開発国家はNPTそのものをボイコットし、強引に核兵器保持に邁進したのです。
- 作者: カール・Z.モーガン,ケン・M.ピーターソン,Karl Z. Morgan,Ken M. Peterson,松井浩,片桐浩
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A:「核兵器国」以外の核保有国は次のとおりです。
国 名 | 最初の核実験 | 核保有宣言 | NPT加盟有無 |
---|---|---|---|
インド | 1974年5月 | 1998年5月 | 非加盟 |
パキスタン | 1998年5月 | 1998年 | 非加盟 |
イスラエル | 不明 | 不明 | 非加盟 |
北朝鮮 | 2006年10月 | 2006年 | 加盟・脱退繰り返し |
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※イスラエルはイスラム国家に対抗するため保有が確実視されるものの、公表しないまま曖昧な核政策をとっている。
※インド・パキスタンの核兵器保有に関して国連安保理・IAEAは非難したものの、両国がNPT非加盟国であったために効力は薄く、その後、2001年9月11日の米国同時多発テロが起こったため、タリバンとの対決にパキスタンの協力を必要とした米国が経済制裁を解除したことから、インド・パキスタンの核兵器保有が黙認されることとなった。
- 作者: 原口一博
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核兵器開発疑惑があったが開発を放棄した国家
国名 | 放棄した経緯 |
---|---|
リビア | 1990年代からウラン濃縮開発に取り組んでいたが、2003年12月19日化学・生物・核兵器計画の放棄を発表した |
イラク | サダム・フセインの統治時代に核兵器開発を試みていたが、湾岸戦争に敗北したため、開発を放棄した |
核兵器開発疑惑国家
- イラン
- シリア
- 作者: 防衛システム研究所
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核兵器保有の実態
核保有の実態は次のように整理することができます。
1 | 核保有国 | 九ヶ国 | 米・露・英・仏・中・インド・パキスタン・イスラエル・北朝鮮 |
2 | 核開発疑惑国 | 二ヶ国 | イラン・シリア |
世界に核兵器を保有する国家が9ヶ国存在するうち、露・中・北朝鮮の3ヶ国が我が国に隣接している現実こそが脅威なのです。
最新・北朝鮮データブック?先軍政治、工作から核開発、ポスト金正日まで (講談社現代新書)
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オバマ大統領プラハ演説と核なき世界
Q:2009年ノーベル平和賞受賞を記念してプラハで行われたオバマ米大統領の核廃絶に向けたスピーチ(演説)は大変印象的なものでした。困難な道のりですが、理想を掲げ、世界に対し、核廃絶に向けた理想を唯一の被爆国である日本が世界に訴え続けなければ、実現は覚束ないように思います。もちろんそのためにはテロやその他の非人道的兵器の使用という現実ともしっかり向き合うことが必要不可欠かと思いますが。いかがですか?
A:「核兵器」を考える時、その脅威が世界的な破壊、破滅に連結拡大するため「核攻撃を抑止」する働きかけ、あるいは「核のない世界」を実現する「理想」を切望する国際的な活動は必要不可欠だと思います。しかしオバマ大統領も演説の中で触れているように65年間使われなかったとはいえ、少しずつ保有国が増えている「現実」を正しく認識しておくことが重要です。
「究極の兵器」あるいは「悪魔の兵器」として扱われる「核兵器」に関して、日本とドイツは開発・製造する能力を持っているものの、これを放棄して「核武装」を回避してきました。特に世界で唯一の被爆体験を持つ我が国は「核武装」国家の3ヶ国に隣接しながらも「核武装を放棄した原則」を堅持して、世界から核兵器を廃絶させるメッセージを八月の広島・長崎の「原爆忌」のたびごとに発信してきたのは周知の通りです。
人類としての大きな視点に立てば「核のない世界」こそ、実現すべき「理想」なのです。しかし現実では日本は「核兵器の脅威」に直面しています。「核兵器」に関して我が国は、「理想の追求」と「現実の脅威対処」との両面に対応を迫られているという事実を正しく認識しなければなりません。そしてこの対応を誤らぬこと、それが広島・長崎の原爆犠牲者に対する慰霊につながると思っています。
- 作者: 澤野重男
- 出版社/メーカー: 平和文化
- 発売日: 2010/07
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核兵器、理想と現実
核武装論――当たり前の話をしようではないか (講談社現代新書)
- 作者: 西部邁
- 出版社/メーカー: 講談社
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サルでもわかる 日本核武装論 (家族で読める family book series 006) (家族で読めるfamily book series―たちまちわかる最新時事解説)
- 作者: 田母神俊雄
- 出版社/メーカー: 飛鳥新社
- 発売日: 2009/08/01
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また2006年10月に北朝鮮が核実験を強行した後、我が国政府の一部で「核武装論」が取り沙汰された時、米国のライス国務長官(当時)が急遽来日し、「核の傘の実効性」を強調して「日本核武装論」を沈静化させたように、同盟国アメリカも日本の核開発を望んでいないでしょう。
NPTから日本が脱退することは同時に日米同盟の解消という事態に発展することが予想されます。当然世界中の非難が我が国に集中するでしょう。国際的に孤立し、活動拠点を世界に広げる日本企業への影響は甚大です。
また確実に予想されることは原子力発電に必要な燃料資源の確保が不可能になるということです。もちろん原油の輸入もストップし、為替相場、株価も大混乱、日本経済は破綻することも予想されます。影響は国内に止まらず、世界中でNPT脱退国が急増し「核兵器の拡散」に歯止めが掛からず、収拾不可能なほどの国際的な混乱に陥ることが懸念されます。
こうした現実を理解した上で、近隣諸国の核保有の実態、能力を分析し、核テロへの対応など現実に存在する「核兵器の脅威」にどう対処するかを喫緊の課題として議論しなければなりません。「普天間基地移設問題」で日本側の迷走によって、日米安保体制が揺らいでいる現在だからこそ「核抑止力」の在り方を真剣に討議し、日本国民の一致した考えを世界に示すべき時だといえるのです。
- 作者: 杉江栄一
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- 作者: 山田克哉
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- 作者: NHK広島核平和プロジェクト
- 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
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自衛隊の実力と課題 解説:佐藤常寛(元海将補)
自衛隊の戦闘部隊としての実力とは?
Q:自衛隊の戦闘部隊としての実力については、どうお考えでしょうか?
A:第5回の「日本の防衛力の課題」で言及したとおり、自衛隊に欠落している「核戦力」と「敵策源地を遠隔攻撃する能力」を除けば、自衛隊の実力は高いと判断できます。
限られた防衛予算の中で、逐年整備してきた戦闘装備の数は少ないものの、最先端の兵器を揃えていると判断して間違いありません。
イラク戦争で明らかになったように、近代戦は最新・最先端技術を採り入れた兵器に対して、技術的に劣った旧兵器では対抗できません。この事実を認識した主要国は、軍装備の近代化に真剣に取り組んでいます。装備の近代化は、所要の国防費がなくては実現できないのも事実です。
- 作者: 井上和彦
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2010/07/21
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SIPRIが公表(2010年3月)した主要国の国防費 ※緑文字はSIPRI推定値
国 名 | 2008年国防費 | 対GDP(%) | 2009年国防費 |
---|---|---|---|
アメリカ | 6,160億7,300万米ドル | 4.3% | 6,632億5,500万米ドル |
ロシア | 583億米ドル | 3.5% | 610億米ドル |
中 国 | 862億米ドル | 2% | 988億米ドル |
イギリス | 656億1,500万米ドル | 2.5% | 692億7,100万米ドル |
フランス | 660億900万米ドル | 2.3% | 673億1,600万米ドル |
ドイツ | 467億5,900万米ドル | 1.3% | 480億2,200万米ドル |
インド | 323億3,400万米ドル | 2.6% | 366億米ドル |
日本 | 462億9,600万米ドル | 0.9% | 468億5,900万米ドル |
日本とドイツの対GDP比がほぼ1%前後であるほか、米国を除いた中で推定値ながら中国の国防費が突出していることがわかります。特に注意を要するのは、中国の実際の国防費は、この推定値の約2倍だと見積もられる点です。
中国の軍事力増大に懸念を抱く諸国は、国防費の透明性を求めるのですが、中国がこの要求に応じない姿勢が問題です。一衣帯水の隣国が近年の経済発展を梃子に軍の近代化を促進しながら、わが国の領海を侵犯しては、外洋海軍への能力を拡大している現実は、海洋国として看過できない問題だと理解してください。
- 作者: 呉軍華
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2008/08/09
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2時間でわかる図解 日本を囲む軍事力の構図―北朝鮮、中国、その脅威の実態。アメリカの軍事覇権の将来は? (2時間でわかる図解シリーズ)
- 作者: 田岡俊次
- 出版社/メーカー: 中経出版
- 発売日: 2003/09
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A:わが国の装備のほとんどは、米国の最先端技術開発に基づいた、ライセンス生産、輸入、あるいは、技術供与による国産で占められます。
イージス護衛艦、P−3C対潜哨戒機、F−15戦闘機、SM−3ミサイル、ペトリオットPAC−3、等は最新鋭の能力を保持しています。
- 作者: 北村淳
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2009/05/15
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自衛隊の実力を支えている、いまひとつは「優秀な隊員」、すなわち人的資源です。最先端技術の結晶である新装備を支障なく操作する能力に長けた隊員は、米国との共同訓練、また、米国本土等での試験発射において好成績を収めています。
さらには国際貢献現場での無事故は、この優秀な隊員の厳正な「規律」、旺盛な「士気」によって達成されています。海上自衛隊が毎年派遣する遠洋航海での無事故記録も、外地で事故が多発する列国海軍からは羨望と感嘆の目で見られているのも事実です。
以上の検討結果からは、実戦の経験はないものの、優秀な隊員が支える自衛隊の近代装備による戦闘能力は高いと判断できます。
- 作者: 菊池雅之
- 出版社/メーカー: かや書房
- 発売日: 1996/04
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- 作者: 阿川尚之
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
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自衛隊が抱える本質的な課題とは何か?
Q:自衛隊の本質的な課題についてはどのようにお考えですか?
A:本質的な「課題」は、自衛隊の地位、言い換えるならば、日本が選択している議会制民主主義体制の中での「位置づけ」を明確にすることです。自衛隊が「軍隊」であるか否か、他国から見れば大変奇異に感じられる論争が、永遠と56年間も続けられる政治風土こそが、本質的な問題です。
「国を守る」根本が、国民の生命財産であり、領域であり、そして、主権、すなわち、国民が選択している体制であるならば、守るべき体制を代表する政治こそが、自衛隊を正しく認知し、国民に「国防」の重要性を説いて然るべきなのです。
- 作者: 井上和彦,福原雅也
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- 作者: 石破茂,原望
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A:平成21年(2009年)1月の世論調査の結果では80.9%の国民が「自衛隊に対してよい、又は、悪くない印象」を持っていることが明らかになっています。こうした国民感情を無視して、「通常の観念で考えられる軍隊とは異なるものと考える」組織として、自衛隊を位置づけている政治の現状こそが異常なのです。早急に見直しを図るべきです。
もし仮に「憲法九条」を隠れ蓑として、奇妙な解釈を今後も継続した場合、国内での地位に不安を抱く若者が、自衛隊への入隊を忌避し始めることが一番の問題です。口々に「平和」を唱え、周辺に実在する脅威には積極的に目をつぶる。そうした「無責任平和主義者」は、このような忌避事態こそ望むものだと小躍りするかもしれません。
しかし、そうした平和ボケした「無責任」な考えが蔓延し、ひとたび日本の権力の中枢に位置し、支配することになれば、日米同盟が大きく揺らぎ、結果として日本周辺の領空・領海で頻発する紛争や大規模な武力攻撃を抑止する軍事力が衰えることになります。
その結果、日本の領土周辺に軍事的な空洞、空白が増えることを待つ脅威国家に利することになるという事実すら理解していない。これは大問題です。直接間接を問わず武力による侵略が現実に起こってからでは、もはや後の祭りなのです。
- 作者: 佐瀬昌盛
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- 作者: 豊下楢彦
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A:少子化は今後さらには進む傾向にあるでしょう。自衛隊の隊員確保が近い将来、より一層困難になることは避けられません。非婚化、未婚化、少子化は国家の大計を揺るがす問題です。こうした国力の低下が国際競争の現実の中で相対的な劣化につながることも憂慮されます。
少子化問題の専門家ではありませんが、安易なばら撒き福祉政策ばかりでは問題は何ひとつ解決しないのではないかと思います。いまの日本にとって最も重要な政策課題のひとつとして、安心して子どもを産み、愛情豊かに育てることができる環境、そのために必要なインフラ整備に取り組むべきではないでしょうか。
少子化克服への最終処方箋―政府・企業・地域・個人の連携による解決策
- 作者: 島田晴雄,渥美由喜
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- 作者: 内閣府
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- 作者: 湯沢雍彦
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これまでこの連載で再三取り上げてきた沖縄と普天間基地移設問題に関する記事の中でも申し上げましたが、老若男女を問わず、広く国民的議論を喚起したいと思っています。
まず政府はもっともっと情報を開示し、正しい知識を増やすことにつながる情報発信も必要です。胸襟を開いて話し合い、歴史を知り、痛みを分かち合うことの意義を議論すべきだと思います。こうした議論を丁寧に繰り返すことが命の尊さを知る絶好の教育機会につながるのです。
- 作者: ケント・E.カルダー,Kent E. Calder,武井楊一
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A:「国防」を考えることなく平和に暮らせる理想の世界を実現することは、日本周辺の脅威の実情を見れば、現実問題として不可能です。夢や理想と現実を混同せず、リアリズムに徹することも「国防」を考えるうえで重要です。
軍事費の伸びをもとに脅威を煽るような単純な議論ではなく、国防を考えるときは、軍事費の増大が創り出す対象国の新たな戦力(能力)、その能力の運用目的(意図)を冷静に分析する必要があります。さらに対象国の国家軍事戦略、それを支える経済戦略など多角的かつリアルに現実を見据え、正確なデータを把握しなければなりません。
そして想定しうる限りの事態に正面から冷静に対応できる勇気、文字通り「抑止力」が機能するように、物心両面における「治にいて、乱を忘れず(備えよ、常に)」の姿勢そのものが、いまの日本に求められていると考えます。
私は「憲法九条」の見直しと「国防軍」としての自衛隊の位置づけを「憲法」に明記することが、自衛隊を希望する若者を勇気づけ、優秀な隊員確保を可能にすると考えています。人的資源の確保こそ、わが国の防衛体制をより確かなものにし、国防力の強化につながる重要課題なのです。
こうした本質的な問題を解決した後で、「専守防衛」の中で「遠隔攻撃力の保持」、米国の「核の傘」の下で「核問題」の解決に向けた現実的な努力を払うべきだと考えています。
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- 作者: 中曽根康弘,松本健一,西部邁
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自衛隊が果たしてきた役割 解説:佐藤常寛(元海将補)
Q:自衛隊が果たしてきた役割とその評価についてはどうお考えですか。
A:大変難しい質問ですね。創設以来56年間に果たした自衛隊の役割について、簡単には言い尽くすことはできません。しかし戦後65年間、日本が直接戦争に巻き込まれなかったということは自衛隊が日米同盟を機軸とした安全保障体制の枠組みで「平和と独立」を守る役割を果たした証しだといえるでしょう。
東西冷戦の余波が、中台の対立、ベトナム戦争として表面化する中で、戦争に直接関与せずに済んだことは、幸運ではありました。その背景には日米同盟に基づく、わが国の後ろ盾としての米軍の存在が大きかったという事実も素直に評価しなければなりません。
これでわかる日本の防衛―コンパクト版防衛白書〈平成21年版〉
- 作者: 防衛省
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しかし東西冷戦が終了したとき、一部の若手政治家の間で西側の勝利に日本が大きく貢献したので、日本は冷戦の勝者側に立っているとの意見が報道されたことがありました。
Q:その言説には無理がありませんか?
A:そうです。これは少し事実を歪めていますね。自分に都合のいいような意見、判断に固執していると思われます。欧州では確かにINFの全廃交渉に向けた熾烈な争いが、冷戦のクライマックスとして表面化しました。
しかし日本は「非核三原則」を楯に、米空母の佐世保入港反対、原子力潜水艦の寄港反対等、むしろ日米同盟に冷や水を浴びせ、東アジアにおける軍事力の均衡で旧ソ連を利する動きも多々あったことを忘れてはいけません。
残念ながら件(くだん)の報道された若手政治家の歴史認識の浅薄さ、自衛隊の置かれてきた困難な立場への無理解を露呈することになってしまいました。
漫画版 世界の歴史 10 パレスチナ問題と東西冷戦 (集英社文庫)
- 作者: 相良匡俊,南舘千晶,竹坂香利
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日米同盟をどう評価すべきか?
Q:戦後日本において、国防に関する議論が深化することなく、さまざまな問題が放置されてきました。手枷、足枷のなか、日米同盟は今日まで維持され、自衛隊は国防の最前線に立ち続けてきたということですね。
A:そう思います。こうした状況のもと自衛隊が果たした役割として、地道に日米共同訓練を強化し、日本の防衛力向上に努めてきた功績が挙げられます。
海上自衛隊、航空自衛隊は米軍との訓練で共通の訓練図書を使う機会が多く、海上自衛隊の例でいえば、これまで洋上訓練を欠かすことなく、着実に米国海軍との絆も強くなってきています。
- 作者: 阿川尚之
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- 作者: 宮嶋茂樹
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A:自衛隊の防衛力を補完する米軍との共同訓練を、継続してきた弛まぬ努力が、日米両軍の「信頼の絆」を強固にし、「平和と独立」を守る役割を十分果たしているといえます。
しかし緊密な同盟関係を今後も維持し、日本だけでなく東アジアをはじめ世界の平和と安全保障に貢献するために今後何が必要なのか?という議論を尽くさなければならないと考えています。
- 作者: 森本敏
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まず集団的自衛権、個別的自衛権の法解釈を考えてみましょう。
日本の領海上で他国籍の武装した集団から武力攻撃を受けたケースで考えてみます。日米が協力して武装攻撃に対処している最中にアメリカの軍艦が攻撃を受けた場合、日本はアメリカの軍艦を助けるために敵を攻撃することができないという現行法の解釈があります。命懸けの現場において、これはあまりにも理不尽な話です。
それを考えると、一日も早く集団的自衛権に関する法律、自衛隊法、武力攻撃事態対処法を改定し、恒久法として整備する必要があります。国の安全保障という重要課題を「票にならない、カネにならない」からといって、国政の場で議論が深まらない現実に不安を感じる方や嘆きや憂いを持つ方も少なくないはずです。
また日米安保条約、日米地位協定改定、有事法制整備についての議論もけっして十分とはいえません。政府、特に文民統制(シビリアン・コントロール)を司る立場にある方々は「前例もなく、法律にも規定されていない事態が起こり得る」と考え、「備えよ、常に」の姿勢を保ちながら、現実的な対応策を十分に検討することが急務だと思います。
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自衛隊のPKO、国際貢献、災害復旧支援活動を考える
Q:PKOをはじめ、国際貢献の現場での活動や国内の災害復旧支援活動についても教えてください。
A:国際貢献の役割はペルシャ湾への掃海部隊派遣、イラク復興支援への部隊派遣、インド洋への海自部隊の派遣、ソマリア沖海賊対策への海自部隊の派遣など必要に応じて、政府決定に従い、その任務を十分果たしているのは周知の事実です。
- 作者: 関はじめ,杉之尾宜生,落合〓@5AD0@
- 出版社/メーカー: 経済界
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- 作者: Jレスキュー編集部
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Q:自衛隊が行う救出・復興支援活動をこれまで素直に受け入れない自治体首長の判断もあったと聞きましたが、実際はどうだったのでしょうか?
A:この震災発生のわずか半年前、関西方面の陸・海・空部隊指揮官(将官)が一堂に会した折、会議の席上、当時の中部方面総監(陸将)が「活断層が走る関西地区での合同災害派遣訓練を兵庫県・大阪府・神戸市・大阪市等に申し入れるのだが、全く相手にされない」と真剣に心配していました。
それは憂いや嘆きに近い「現場の声」そのものであったと記憶しています。残念ながらそれが当時の関西地区各自治体の自衛隊に対する評価だったのです。
- 出版社/メーカー: 扶桑社
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- 作者: 阪神淡路大震災復興フォローアップ委員会,兵庫県
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政治の不在、あるいは過剰がもたらす問題
A:いま申し上げた状況下での震災発生でしたから、残念ながら自衛隊に対する災害派遣要請等が後手、後手に回ってしまいました。その原因のひとつが、ここでもまた政治の過剰によるものではなかったかと思うと、いまもなお、やり切れない思い、無念さが残ります。
防災の決め手「災害エスノグラフィー」 ~阪神・淡路大震災 秘められた証言
- 作者: 林春男,田中聡,重川希志依,NHK「阪神淡路大震災秘められた決断」制作班
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その後、地方自治体との「災害派遣訓練」が活発化して、自衛隊と地方住民との意志の疎通が緊密化するに従い、国民の自衛隊を見る目に変化が現れ、評価は以前よりも高くなっていったのです。
こうして自衛隊の役割を概観しますと「平和と独立」を守り、「国際貢献」を果たし、「大規模災害」への対処に万全を期している点で、その実績は十分評価できるのです。
阪神・淡路大震災10年 現場からの警告―日本の危機管理は大丈夫か
- 作者: 神谷秀之
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- 作者: 荒谷卓
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自衛隊は「軍隊」なのか? 解説:佐藤常寛(元海将補)
拡大、拡散する武器市場
前回は世界規模で軍縮が叫ばれるなか、その大きな潮流に逆行するかの如く、武器市場が年々拡大し、国連安保理常任理事国5ヶ国や新興国の武器輸出入が活発化している現状について解説していただきました。
国防最前線 いまここにある危機の本質 連載第八回
永世中立国スイスや高福祉国家として注目を浴びるスウェーデン、第二次世界大戦の敗戦国ドイツをはじめ、中国も武器市場で大きな役割を果たしています。また北朝鮮の武器密輸も見逃してはならない事実です。
- 作者: 田所昌幸
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- 作者: 講談社
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定年まで国防の最前線で働いた自衛官として、また潜水艦長をはじめ数々の要職を務められ、さまざまな現場に立ち会われてきた佐藤さんに、自衛隊の本質と戦闘部隊としてどの程度の実力を持っているのか?など、じっくりとお話をお伺いしたいと思います。
自衛隊は「軍隊」なのか?
Q:まず、自衛隊の本質について伺います。自衛隊は「軍隊」なのでしょうか。
A:自衛隊は国際法に則った「軍隊」です。自衛隊が創設された昭和29年にはすでに「日米安保条約」が発効していました。
また、戦後に制定された日本国憲法には、
「前文」:「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と明記されています。
「第九条第一項」:「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と定め、
「第二項」:「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」と追記されていたことは周知のとおりです。
井上ひさしの 子どもにつたえる日本国憲法 (シリーズ 子どもたちの未来のために)
- 作者: 井上ひさし,いわさきちひろ
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この「前文」と「九条」とを素直に解釈すれば、新たに設立された「国際連合(UN:United Nations 正しくは連合諸国)」の枠組みの中で、「諸国民の公正と信義に信頼して」、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」ことになります。
常識として知っておきたい日本国憲法 ― 何が書かれているのか、何が問題なのか、が2時間でわかる本 (KAWADE夢文庫)
- 作者: 博学こだわり倶楽部
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GHQ作成の情報操作書「真相箱」の呪縛を解く―戦後日本人の歴史観はこうして歪められた(小学館文庫)
- 作者: 櫻井よしこ
- 出版社/メーカー: 小学館
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自衛隊創設、その歴史的経緯
Q:平和憲法と呼ばれる現在の日本国憲法制定から間もない1950年には朝鮮戦争が勃発。占領下の日本では警察予備隊が創設され、現在の自衛隊創設へとつながる歴史的経緯もあります。
面白いほどよくわかる自衛隊―最新装備から防衛システムまで、本当の実力を検証! (学校で教えない教科書)
- 作者: 志方俊之
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「平和」の理想を求めた「日本国憲法」の制定(1947年)後、わが国を取り巻く軍事情勢は、米ソを中心とした東西冷戦の顕在化(1948年)、朝鮮戦争勃発(1950年)による警察予備隊の創設、対岸に朝鮮戦争を控えた中での独立と日米安保条約の締結(1952年)、朝鮮戦争休戦(1953年)、と目まぐるしく変化していきます。
Q:長年日本国内では自衛隊は軍隊ではない、日本周辺に危機、仮想敵国は存在しないという理屈が罷り通ってきたようにも思えます。
日本国民の間に「何のために創設するのか」との目的意識を醸成させることなく、また、GHQからのたとえ御仕着せであったとしても、「日本国憲法」との整合性を図ることなく、自衛隊を創設(1954年)したために、その後、自衛隊の置かれた地位が極めて厳しくなったのです。
本来ならば、被占領を脱却して独立を果たした1952(昭和27)年に、東アジアの軍事情勢の現実、更には、新たに生起した「東西冷戦」の脅威に対応するために、改めて自主「憲法」を制定し、その審議の過程で「国軍」保持の可否について国民の意思を確認すべきだったといえます。
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自衛隊の地位と違憲論争
Q:現実には憲法改正は行われず、自衛隊についての存在意義も理念、主義主張、時に感情論にすら縛られ、国会では自衛隊は違憲だという議論が続きました。
さきほど申し上げた「憲法再検討」のチャンスを無作為のまま見送ったために、政府は自衛隊創設と同時に、「憲法」と「自衛隊」との関係で、「憲法違反」を声高に主張する一部野党との間で、俗にいう「神学論争」に忙殺されてきました。
米軍違憲―「憲法上その存在を許すべからざるもの」 (本の泉社マイブックレット)
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その後、「通常の観念で考えられます軍隊ではありませんが、国際法上は軍隊として取り扱われておりまして、自衛官は軍隊の構成員に該当いたします(1990年10月18日衆議院)」との見解に至りました。
ポイント解説 Q&A 憲法改正手続法―憲法改正手続と統治構造改革ガイド―
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最近になっても、2006(平成18)年11月、「自衛隊は軍隊に該当するか」との直裁な国会議員の質問状に対して、安倍晋三首相(当時)は、1985年から継承されてきた「政府見解」を踏襲して、「自衛隊は、外国による侵略に対し、わが国を防衛する任務を有するものの、憲法上自衛のための必要最小限度を超える実力を保持し得ない等の制約を課せられており、通常の観念で考えられる軍隊とは異なるものと考えている」と文書で答弁しています。
こうした政府の解釈(国会答弁)を要約しますと、「自衛隊」は「憲法上の制約の中にあるため、通常観念での軍隊とは異なるものの、国際法上は軍隊として取り扱われている」との、不明瞭で奥歯にものが挟まったような位置づけになっています。
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Q:たとえば海上自衛隊における水上艦は「軍艦」なのでしょうか?
A:自衛艦は、「海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)1982年12月10日」の規定を満足しているため、対外的に「軍艦」として扱われています。
「第二十九条 軍艦の定義」に規定する「軍艦」の条件は次の4項目です。
- 一つの国の軍隊に属する船舶
- 当該国の国籍を示す外部標識を掲げ
- 当該国の政府が正式に任命した名簿記載の士官が指揮する
- 正規の軍隊の規律に服する乗組員が配置されている
この条件に対して、自衛艦は、
として、4条件を全て満たすことから「軍艦」として行動します。
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例えば、日本人が地元の官憲に追われて艦内に逃げ込んだ場合には、これを保護し、官憲の艦内捜査を拒否できるのです。陸自、空自の部隊も、名簿記載の幹部(士官・将校)が指揮を執り、訓練を受けた正規の曹士(下士官・兵)が配置され、国籍を識別可能な部隊標識を使用することから「軍艦」と同じく、国際的な「軍隊」の要件を満たしているといえます。
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こんなにスゴイ最強の自衛隊―アジア最強の軍隊は我が自衛隊だった!
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混迷し続けた「自衛隊」の定義
Q:「自衛隊」に対し、今もって憲法違反を叫ぶ政治家が存在します。生命の危険にさらされる過酷な任務を負っていながら、国内的には「通常の観念で考えられる軍隊とは異なるもの」として歪(いびつ)な地位に留められ、その一方国際的には「軍隊」の扱いを受けていると考えてよいということですね。
A:その通りです。こうした背景を端的に著しているものに、自衛官の独特な「階級呼称」があります。例えば、「1尉」「2尉」「3尉」の階級は、米国海軍との交流の場では、「大尉(Lieutenant)」、「中尉(Lieutenant Junior Grade)」、「少尉(Ensign)」と置き換えて英語で紹介しなければ、国際的には通じない現状です。
さらに叙勲においても、米軍の大将に対しては「旭日大綬章」が贈呈されるものの、わが国の統幕議長(現統合幕僚長)、陸・海・空各幕僚長経験者(国際的に大将)に対しては「瑞宝重光章」の贈呈に留められ、「国防」の重責を果たしてきた地位経験者としては、低い扱いになっています。
自衛隊違憲論争、問題の本質はどこにあるのか?
Q:なぜこのようなことになったのでしょうか?
A:自衛隊の地位について混乱した元凶が、被占領期にGHQから慌ただしく押し付けられた「憲法」にも拘らず、軍事情勢の変化を無視して金科玉条のように固守し、「憲法九条」の条文に関して無理な釈明と「詭弁(きべん)」を弄(ろう)し続けた政府の姿勢にあったことは、間違いありません。
しかし普天間基地移設問題を通して、国民の間に「国防の意義」を考える気運が高まり、「日本国憲法」制定から62年を経過した現在日本を取り巻く厳しい軍事情勢を勘案すれば、「憲法改正」に着手して、このような曖昧で苦しい政府答弁を不要にする新しい「憲法」を制定することが求められていると私は考えます。
「憲法改正」審議を通じ、軍隊としての自衛隊の地位について国民の合意を形成することこそが、国民を真に守る、国民のための「国防力」保持になると確信します。
Q:ありがとうございます。次回は自衛隊の実力について詳しくお話を伺ってまいりたいと存じます。よろしくお願いします。<聞き手・構成:小関達哉>
世界の武器市場と死の商人 解説:佐藤常寛(元海将補)
「国防最前線」ではこれまで日本を取り巻く東アジアの軍事情勢と脅威の実態、さらにはその脅威の背景についてもお話を伺ってきました。
特に前回は沖縄と普天間基地移転問題を取り上げ、東アジアにおける「戦争抑止」の視点、また地政学上の視点からも、日米同盟を機軸にした日本本土と沖縄が果たす安全保障上の役割が日増しに高まっていることを明確にご指摘いただいたことが強く印象に残っています。
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Q:世界の武器輸出・輸入の現状について教えてください。
A:我が国が「武器輸出」「武器輸入」と呼ぶ問題は、国際的には「武器移転」と呼称して扱われます。もっとも「武器輸出三原則」を提唱している我が国の実情に応じて、ここでは「武器輸出」「武器輸入」の言葉で統一することにします。
「武器輸出」「武器輸入」の実態については、いわゆる「死の商人」が跋扈する「闇取引」に係わる分野を明らかにすることは不可能と言われます。
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武器輸出上位10ヶ国
<輸出額単位:米ドル>
順位 国 名 輸出対象国数 5ヶ年(2005-2009)輸出総額 1 アメリカ 81 345億3,600万米ドル 2 ロシア 49 272億1,600万米ドル 3 ドイツ 45 123億5,900万米ドル 4 フランス 42 92億3,400万米ドル 5 イギリス 31 47億6,200万米ドル 6 オランダ 29 42億8,800万米ドル 7 イタリア 53 29億8,600万米ドル 8 スペイン 20 29億5,800万米ドル 9 中 国 32 27億3,100万米ドル 10 スウェーデン 35 21億3,000万米ドル 注:
13位に永世中立国スイス。スイスは21カ国に対し輸出総額16億3,400万米ドル。
中国は32ヶ国のうち16ヶ国はアフリカ。
インドと敵対するパキスタンに5ヶ年で12億1,500万米ドルの武器輸出。武器輸入上位10ヶ国
<輸入額単位:米ドル>
順位 国 名 輸入対象国数 5ヶ年(2005-2009)輸入総額 1 中 国 6 108億9,200万米ドル 2 インド 10 83億9,800万米ドル 3 韓 国 8 70億8,700万米ドル 4 アラブ首長国連邦 13 65億1,400万米ドル 5 ギリシャ 11 46億1,500万米ドル 6 イスラエル 3 39億1,200万米ドル 7 シンガポール 8 38億1,600万米ドル 8 アメリカ 13 34億5,300万米ドル 9 アルジェリア 8 33億9,400万米ドル 10 パキスタン 11 32億9,200万米ドル 注1:29位のイランは3カ国から10億7,500万米ドル相当額の武器を輸入している。内訳はロシアが6億9,700万米ドル、中国が3億7,400万米ドルの対イラン輸出シェア保持。
注2:インドに対してはロシアが64億5,800万米ドル(77%)の武器輸出。イスラエルに対してはアメリカが38億3,900万米ドル(98%)の武器輸出。
面白いほどよくわかる 世界の軍隊と兵器―アメリカの世界支配と各国の勢力図を読む (学校で教えない教科書)
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韓国の軍隊―徴兵制は社会に何をもたらしているか (中公新書)
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軍備拡張、武器市場拡大の現実
Q:さまざまな国々が膨大な国家予算を費やして軍備を拡張しているということでしょうか?
A:「武器輸出」「武器輸入」の実態をデータでみると「武器輸出」に国連の安保理常任理事国五カ国が全て関わっていること、また「武器輸入」には中国、インド、韓国が多額の国家予算を注ぎ込んでいることが分かります。
SIPRIのデータで2000〜2004年の5年間と直近の5年間を比較すると、世界の軍事費は22%の伸びを示しています。
※ご参考:ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)ウェブサイト http://www.sipri.org/
また「武器輸出」でアメリカ、ロシアの二大常任理事国が突出した実績をもっている事実を見れば、国連が「平和」を目指して促進しようとする「軍縮」がなかなか進展しない背景が明らかになります。
緊密化する中国とアフリカ諸国
Q:武器市場における輸出国と輸入国の関係とはどういうものですか?
A:武器の輸出は対象輸入国に対する関係を緊密にするとともに、危機の段階での「力関係」において、輸出国が優位を占めることが可能になります。アメリカは81ヶ国に、ロシアは49ヶ国に対して「武器輸出」を通じて、軍事力を管制できる立場を有しているといえます。
この視点から「武器輸入」大国の中国を精査してみますと、ロシアからの輸入に大きな変化が生まれていることが判ります。
中国のロシア離れ、その真の狙いとは何か?
過去5年間に中国がロシアから「武器輸入」した年度額(単位は米ドル)は、
2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 32億2,400万米ドル 35億2,700万米ドル 12億4,800万米ドル 12億4,600万米ドル 4億100万米ドル 五年間で、年間輸入額が八分の一に減少しています。
さらに全武器輸入総額が2005年度、35億1,100万米ドルから2009年度、5億9,500万米ドルに約六分の一に減少。中でも2009年度は2008年度の14億8,100万米ドルから三分の一まで減少しているのが極めて顕著な特徴です。
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Q:中国がロシアからの武器輸入を大きく減らしているという事実は何を意味しているのでしょうか?
A:中国はこれまで軍の近代化を図る上で、大量の武器輸入を進めてきました。しかし武器の大量輸入は同時に技術移転につながり、ついに中国は武器製造技術の修得(模造も含め)を果たし、国産化の目処をつけた可能性を示唆しています。
アメリカ東アジア軍事戦略と日米安保体制―付・国防総省第四次東アジア戦略報告/日米同盟・未来へ向けての再編成と再調整
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これは軍の近代化を目指した国内の武器増産に予算を注ぎ込んでいることを意味しているとみて間違いありません。
また中国が「武器輸出」において、アフリカ16ヶ国を対象に武器を売却しているという事実は、レアメタルを含む資源豊富なアフリカ諸国との関係緊密化と国家の危機管理においても影響力の保持を狙っている点で、その深謀遠慮が明確になるのです。
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中国の武器輸出拡大とレアメタル資源確保がもたらす日本への影響
Q:中国が武器輸出国として存在感を増し、アフリカ諸国との関係が緊密になってきていることで、日本に与える影響も少なくないと思いますが、いかがでしょうか?
こうした中国の「武器輸出」「武器輸入」の実態が日本に与える影響は次の二点に絞られます。
知らなきゃヤバイ!レアメタルが日本の生命線を握る (B&Tブックス)
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ドイツの武器輸出
Q:ドイツの武器輸出額の大きさも気になります。
A:そうですね。ドイツが「武器輸出」において世界第3位の実績を保持していることも注目されて良いでしょう。
日本は「武器輸出」に関して、「武器輸出三原則」を閣議決定し、自制しています。これは第二次世界大戦で敗戦国となり、周辺諸国に多大な迷惑を及ぼした歴史について自ら深い反省の上に立って行った武器輸出規制なのです。
しかしドイツは先の大戦において、ナチスの暴虐があったにもかかわらず、淡々と「武器輸出」を推進し、外貨を稼いでいる点が日本との違いを浮き彫りにしています。
“戦争責任”とは何か―清算されなかったドイツの過去 (中公新書)
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日本はもうドイツに学ばない?―20世紀の戦争をどう克服すべきか
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スウェーデン、スイスの武器輸出
さらに北欧で「高福祉国家」として名を馳せているスウェーデンが「武器輸出」で外貨を稼いでいる事実や加えて永世中立国スイスも「武器輸出」に手を染めている現実が明らかになっています。
中立国の戦い―スイス、スウェーデン、スペインの苦難の道標 (光人社NF文庫)
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スイスと日本 国を守るということ ?「永世中立」を支える「民間防衛」の知恵に学ぶ
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北朝鮮の武器輸出
Q:北朝鮮の武器市場における動きはどうでしょうか?
A:日本に最も脅威を与える北朝鮮に関して、SIPRIのデータは充分ではありません。しかし北朝鮮が経済の疲弊を武器貿易で補おうと、なりふり構わず武器の密輸出に励んでいる事実を正しく認識しておく必要があります。北朝鮮のミサイル技術がイラン、パキスタン等の中東地域へ密かに流出したために、この地域の不安定要因が増大している事実を理解しておくべきです。
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武器市場の大きな変化、仁義なき戦い
Q:金融危機と財政赤字から国防費を大幅に削減した先進国は「武器輸出」に躍起となり、軍事力の急速な拡大でいまや武器輸出国にもなった中国も存在感を増しています。一方武器を買う余裕のある新興国や産油国は「武器輸入」の恰好のターゲットになっています。武器の輸出は技術移転につながり、輸入国もいずれは輸出国として頭角を現すことになるでしょう。なぜこれほどまでに武器市場が野放し状態なのでしょうか?
A:核兵器に関しては「核不拡散条約(NPT)」があるのに対して、通常兵器に関しては「武器輸出」「武器輸入」を規制する国際条約が無かったからです。
日本は「武器輸出三原則(1967年政府方針)」があり、これを更に厳しく規定した「武器輸出に関する政府統一見解(1976年)」を、また、国会において「武器輸出問題等に関する決議(1981年)」を採択しています。つまり我が国は武器輸出が出来ない仕組みを構築しているのです。
武器輸出を自制するこの姿勢は、国内防衛産業を育成する視点では批判が多いものの、通常兵器による紛争・戦争を世界から無くそうとする国際的な動きに対し、極めて大きな発言力を持ち得る拠り所にもなるでしょう。
武器貿易条約、平和への長い道のり
Q:武器輸出三原則を掲げる日本が国連に対しさまざまな働きかけを行っていますね。
A:そうです。こうした背景を持つ日本が主体となって、6ヶ国が国連総会に提案した「武器貿易条約に向けて:通常兵器の輸入、輸出及び移譲に関する国際基準の設定について」が2006年12月6日、153ヶ国の支持を得て採択されました。
2009年10月30日には通常兵器の国際的な移譲を規制する「武器貿易条約(ATT:Arms Trade Treaty)」を成立させるための計画に、再び153ヶ国が同意して採択されました。無秩序化し拡大し続ける武器市場を規制するために国連の動きが少し加速してきていることは間違いありません。
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A:この採択を棄権した国には、中国、インド、イラン、リビア、パキスタン、ロシア、アラブ首長国連邦が含まれ、この中には地域紛争に深く関わる国もあって、この先、条約が締結されるまでには問題が山積みしているのも事実です。
国際の軍事情勢は「国益」と「利害」が複雑に交叉するために、武器貿易の規制すら容易に実現できない状態です。
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現実の軍事的脅威に冷静に対応しながら、非戦、国際平和という理想に向かって邁進する努力が、同時に必要なのです。
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- 作者: ヘンリー・A・キッシンジャー,伊藤幸雄訳,石津朋之解説
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